選手のパフォーマンス&負荷トラッキング技術の発達により、これまで主観的な判断によるところが大きかった選手の疲労管理や練習での負荷の調整を、データを活用することによって、客観的に判断することができるようになってきた。客観的なデータを取り入れることは、目で見ているだけでは見逃してしまう選手の怪我や疲労の兆候を発見することや、過密なスケジュールの中で毎試合ハードワークが求められるバスケットボールという競技において、シーズンを通じてより良いコンディションで臨むための鍵になるかもしれない。最新鋭トラッキングツールであるKINEXON(以下、キネクソン)を取り入れることで、チームやトレーナーとしての判断にどう役立つのか。Bリーグに所属する琉球ゴールデンキングスでストレングス&コンディショニングコーチを務める畝挟孝洋氏に話を伺った。(取材日:2023年7月25日)
―キネクソンの導入当初はどのような指標を見ていましたか?
畝挟氏 総走行距離、最高速度、ジャンプ高に加えて、Accumulated Acceleration Load(総合的な負荷データ)、1分あたりのAccumulated Acceleration Load、Mechanical Load(下肢への負担が加味される負荷データ)、Mechanical Intensity(一分あたりのMechanical Load)やHigh Intensity Distance(高強度域でカバーされた走行距離)をモニタリングしていました。
―どのような方法でデータをチームにフィードバックしていましたか?
畝挟氏 キネクソンの数値を基に疲労が溜まっていて危険だと思う選手をコーチの方々に説明していました。特に、3月と4月は週3回試合がある過密スケジュールだったため、プレータイムが多い選手はできる範囲で出場時間を減らして欲しい、などと話していました。また、試合に出場していない選手たちには、スキルコーチとコミュニケーションをとりながら、ワークアウトの負荷を増やしてもらっていました。
―先ほど挙げていただいた複数のデータの中から3つほどよく見ていたものを教えてください。
畝挟氏 High Intensity Distanceを結構見ていました。他に挙げるとすると、総走行距離やAccumulated Acceleration Loadも多く見ていました。それ以外にも、最高速度や最高ジャンプ高も参考にしていました。
―キネクソンを活用していく中で新しい発見はありましたか?
畝挟氏 主観的な予測と同じようなデータが出ており、新しい発見というものはあまりなかったです。ただ、あくまで感覚的にはなるのですが、記録していたRPE(選手の主観的な疲労度を数値化したもの)と比較したところ、どのような時に疲労を感じ、その疲労がどのように数値に反映されるかが人によって異なっているように感じました。例えば、方向転換が多いと疲労を感じる選手もいれば、走行距離が多いと疲労を感じるという選手もいました。
―Bリーグのチャンピオンシップに選手のピークを持ってくるにあたって、キネクソンが役に立った場面はありましたか?
畝挟氏 先ほど言ったように、3月と4月はBリーグ以外の試合が多く、タフなスケジュールになっていました。そのため、選手の健康を管理して、疲労が溜まったり怪我人が出るといったことがないようにし、最後のチャンピオンシップにいい状態で入るために、客観的な数字が得られたことは非常に助けになりました。
―これから迎える2023-24シーズンで、昨シーズンから継続していきたいことや、新しく取り組みたいことを教えてください。
畝挟氏 今までやってきたことは継続してモニタリングしていきたいと思っています。特に、今シーズンはプレシーズンからキネクソンが使えるため、その段階からデータを見つつ選手のコンディションを上げていきたいです。そして、Bリーグのレギュラーシーズン60試合に加えて、天皇杯やチャンピオンシップもあるため、そこでモニタリングを活用して、いい状態をキープして戦っていきたいと思っています。その中で何か新しいものが発見できれば良いなと思っています。
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