欧米スポーツエンタメ産業において、NFTを利用したコンテンツのデジタル化が新たなトレンドとなっている。同技術を用いたサービスのなかでも、現在最も注目を集めているのが、NBAとカナダのスタートアップ『ダッパー・ラブ(Dapper Labs)』が手掛けるデジタル版トレーディングカード「NBAトップショット(NBA Top Shot)」と、フランスのスタートアップ『ソーレア(Sorare)』が手掛けるファンタジーサッカーゲームだ。
大手経済誌『フォーブス(Forbes)』は上記2企業のNFTコンテンツ化における取組について以下のように纏めている。
▼グーグルがダッパーラブズとパートナーシップ締結、ブロックチェーンとNFTの拡大を全面サポート
人気ブロックチェーンゲーム「クリプトキティーズ(Cryptokitties)」などを手掛けるダッパー・ラブとNBAは2020年10月、NFTを利用したデジタル版トレーディングカード「NBAトップショット」をリリース。「モーメント(Moment)」と呼ばれるハイライト動画のパッケージの販売とユーザー間同士で売買ができるマーケットプレイスを提供している。
2021年9月14日時点の累計売上高が6億8000万ドル(約745億円)に及ぶ同サービスの開発を手掛けたダッパー・ラブは、NFT分野で最も成功している企業の1つであり、その評価額は75億ドル(約8306億円)とされている。
また、ブロックチェーンなどの分散型アプリケーションの分析サイト『ダップス・レーダー(Dapps Radar)』によると、2021年6月から8月までのダップス・ラブにおける取引数は週間50万~100万件に及び、NFTプラットフォームにおいて世界4番目の売買高を記録したとのこと。
NFT界隈で急速に成長するダップス・ラブの拡大促進における全面的なサポートを開始したのが、分散型ネットワークが牽引する次世代の「Web 3.0」において、主導的なポジションを確立しようとしている世界最大手の検索エンジンであるグーグルだ。同社のクラウド部門『グーグルクラウド』は2021年9月14日、ダッパー・ラブとの複数年にわたるパートナーシップにより、Flow ブロックチェーンの拡大を支援し、開発者たちの迅速で持続可能な成長を支援するためのインフラを提供することを発表。
シンプルで静的なウェブサイトで定義された初期のインターネットの「Web1.0」に続いて登場した「Web2.0」は、ユーザー生成型コンテンツ(CGM)とソーシャルメディアが主流を占めていた。そして、その次の潮流である「Web3.0」では、分散型ネットワークが大きな役割を果たそうとしている。
▼パリを拠点とするNFTサッカーゲームプロバイダー『ソーレア(Sorare)』が、約745億円に及ぶ大型資金調達
NFTを利用したファンタジーサッカーゲームを提供するソーレアは2021年9月21日、ソフトバンクの『ビジョン・ファンド2』が主導する資金調達ラウンド(シリーズB)にて6億8000万ドル(約745.2億円)を調達したことを発表。同日にフォーブスが纏めた記事によると、同ラウンドにおける今回の調達額は欧州で史上最大となり、ブルックチェーン企業としては世界2番目であるとのこと。同社はこの投資を受け、自社の評価額が43億ドル(約4713億円)になったと発表している。
パリを拠点に2018年に設立されたソーレアは、ユーザーがサッカー選手の公式ライセンスカードを購入し、そのカードでチームを結成して対戦するオンラインゲームを提供。同ゲームは現実の試合での選手のパフォーマンスに基づいて結果が決まる「ファンタジー型ゲーム」となっている。
ソーレアによると、2021年1月から8月までに同社NFTプラットフォーム上で取引されたライセンスカードの総額は150万ドル(約1.7億円)以上となっているようだ。
▼NFT化のメリット
上記2企業の事例からNFTを用いたコンテンツのデジタル化がスポーツエンタメ産業全体において如何に可能性を秘めているかが分かるだろう。では、なぜ今NFTが注目を集めているのだろうか。本邦スポーツ関連組織、民間企業などに対してコンサルを提供するトランスインサイト株式会社の代表取締役社長である鈴木友也氏は、その理由がNFTの仕組みにあると以下のように纏めている。
1. 資産劣化や盗難の防止:資産がデジタル化されているうえ、その管理がブロックチェーン上でなされるため、資産劣化や盗難のリスクを排除できる。
2. 真正性の保証:物理的にモノとして存在する場合は偽造リスクがあり、詐欺などの犯罪に巻き込まれる恐れもある。ブロックチェーンによる管理でこうしたリスクを排除し、その真正性(本物であること)を容易に証明することができる。
3. 価値(希少性)の可視化:いつどのデジタルカードが何枚販売されたのかが容易に分かり、資産の希少性が可視化されている。マーケットプレイスに行けば再販価格が表示されているため、マニアでなくてもその希少価値を簡単に把握することができる。再販との相性が非常に良く、取引のハードルも低い。
4. 知的財産権(IP)の保護:全ての取引がブロックチェーン上で漏れなく記録・管理される。物理的なモノの場合、ユーザーの手に渡ってしまった後は再販行動を補足することは困難であるが、NFTではこれを容易に行うことが可能だ。言い換えれば、転売される度に一定の手数料を確実に取ることで、クリエイターの知的財産権(IP)を保護することができる。
分散型ネットワークが大きな役割を果たす「Web 3.0」時代において、コンテンツのNFT化はスポーツ産業に限らず、全てのエンタメ産業において重要なアセットとなっていくと予想できるだろう。
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